『9人の翻訳家:囚われたベストセラー』違和感のラストを考える

2024年6月30日

ロッカリア
どーも、ロッカリアです。
ちょうど一年前に公開され、絶賛されたミステリー映画をご紹介。
ただ、この映画の真の姿は、ラストで分かります

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映画『9人の翻訳家:囚われたベストセラー』予告編

   こんな人にオススメ! 

  • 推理力には自信がある
  • 極上のミステリーを探している
  • この映画の正体を知りたい

どんな映画?

映画『ダ・ヴィンチ・コード』の原作者ダン・ブラウンが執筆した、シリーズ4作目の「インフェルノ」の流出を防ぐため、出版社が翻訳家たちを実際に地下室で管理して執筆させた。
これをヒントに制作された2019年のミステリー作品。
「犯人は誰か?」と言う興味は、物語の中盤あたりで崩されるが、何重にも貼られた仕掛けには、誰もが苦戦する事必至だ。
監督は、『タイピスト!』で小気味良い演出を見せたレジス・ロワンサルが脚本も書いている。

▶︎▶︎︎︎︎︎︎︎︎▶ 大ベストセラーのミステリー小説「デダリュス」完結編の出版にあたり、9カ国、9人の翻訳者たちがパリに集められた。
ネットに流出するのを恐れた出版社のオーナー、エリックは、秘密保持の観点から大富豪の屋敷の地下シェルターで、彼らを執筆させる。
施設自体は快適な環境だったが、外部との連絡は全て遮断、もちろん携帯やパソコンも持ち込む事が出来ず、ネット環境もない。
だが、彼らが執筆を開始すると、「デダリュス」の冒頭がネットに公開され、エリックの携帯に脅迫状が届く。
24時間以内に500万ユーロ払わなければ、続く100ページも公開する、と。
これに激怒したオーナーのエリックは、翻訳者9人の中に犯人がいると確信、強硬手段を使って探し出そうとするが、事件は想像もつかない方へと動き始める……。

同じような、どんでん返しのミステリー映画 ↓


見所&解説

犯人は誰? と言う「フーダニット」じゃない

「デダリュス」と言う文学性の高いミステリー小説をめぐって、出版社のオーナー、エリックと、地下シェルターに閉じ込められた、翻訳家9人たちの間に生じる、謎とサスペンスを縦軸に、謎の作家オスカル・ブラックと、文学愛を横軸に配した見事な作品。
しかも、犯人を中盤あたりで見せておきながら、その後の意外なラストまで、ノンストップで鑑賞できる作品だ。
いわゆる犯人は誰? と言う形式よりも、ラストに向かって、完全犯罪のプロセスを楽しめる作品、と言う形容が出来る。

ミステリーなので、未見の人には詳細を避けるが、見所を少しだけ紹介します。
閉じ込められた密室劇だけに留まらず、電車や車を使ったサスペンス場面があったり、事件と並行して語られる文学への愛、考え方が、読書好きにはたまらないセリフで、多く語られている部分も本作の見所でしょう。
それは、ありふれたのミステリーじゃない事を、優れた脚本が支えている証明だとも言えます。
ただ、鑑賞にあたり、気を付けないといけない所があります。
それは、何気に、アガサ・クリスティの「オリエント急行殺人事件」のネタバレ、と言うより犯人を指摘する場面が、唐突にやって来るので、この小説、あるいは映画を見たりしていない人は覚悟が必要。

さあ、力を抜いて、この作品の全てを自身の目で確かめて、見終わったら、また遊びに来て、以下のネタバレ解説を参考にして下さい。

見所&解説〜ダークサイド

さて、ここからはネタバレで深掘りしていきましょう。

完全犯罪成立の物語…ではない

最初にこの映画を見て感じたのが、フランス映画(ベルギーと合作)も随分ハリウッド的になって来たなぁ、だった。
地下の核シェルターの発想、主人公アレックスの本当の部屋の環境など、フランス語じゃなければアメリカ映画と勘違いしそうだ。(映画『ダ・ヴィンチ・コード』の方が、よっぽどフランス映画っぽく見えた)
さて、この映画、一見すると、アレックスの完全犯罪が成立したように見えなかっただろうか?
警察は、オーナーのエリックを完全に犯人だと思い込んで、アレックスは悠々と刑務所を後にして歩いて行くエンディング……。
少なくとも、初めはそう思いました。
でも、エンドロールが流れ出すと、ある違和感を覚えました。
待てよ、もしアレックスの復讐が叶い、全ての罪をエリックに負わせて、完全犯罪が成立した演出をするなら、そのまま歩き続けて、暗転になり、エンドロールが流れるはずだ。
だが、エンドロール直前に、アレックスの歩みにはストップモーションがかけられる。
これが、僕が抱いた違和感の正体だった。
そして考えた。
エリックは、実際に人を殺しているので、罪の問われるのは当たり前だとして、真相をエリック自身に語ったのは間違いじゃないだろうか。
単純に、観客に真相を伝え、復讐劇を強調するなら、銃で撃たれ、意識のないまま、病院のベッドで寝ているカテリーナ(オルガ・キュリレンコ)に独白し、刑務所にいるエリックの苦しみを描いて見せれば済んだはず。
裁判になれば、真相を知ったエリックの供述や、最終的に根っからの犯罪者ではない共犯者(ただの翻訳家たち)の誰かが、あっさり事実を認める事も考えられる。
そうなると、アレックス自身も、罪の問われる危険性があるはず。
だから、エンディングその後、を考えると、アレックスの完全犯罪成立の物語ではない事が、容易に想像できる。
世間では、ミステリー映画の傑作としての評価が高いが、監督(脚本も)は、単純なミステリー作品、復讐劇に終わらせたくなかったのではないだろうか。
じゃあ、何が言いたかったのか?
もちろん、エリックに階段から突き落とされ、本屋を燃やされ殺されたジョルジュへの思いがあることには違いない。
それと並行して、アレックスには、犯罪に手を染めてでも守りたい、文学への深淵なる愛を描きたっかたのではないだろうか?
そう思えるセリフに、僕はブチ当たってしまったのだ。
それは、ジョルジュがアレックスに言ったセリフ。

   ページを開けば世界が溢れ出す。
物語は全てを圧倒し、私たちの心で永遠に生き続ける

これって、本を読むことの真理ではないのか?
しかも、このセリフは、映画見る人々にとっても、当てはまる言葉ではないだろうか?
何故映画を見るのか、その明確な答えを表現していると、僕は強く感じてしまった、のだ……。

とは言っても、遊び心も満載なのだ

映画ファンの心をくすぐる演出も、また本作の魅力でもある。
例えば、すぐにピンと来た人もいるでしょうが、小説「デダリュス」の登場人物レベッカは、明らかに我らがヒッチ先生の映画『レベッカ』を連想させるし、そのレベッカに影響を受けた女性、オルガ・キュリレンコが演じるカテリーナは、モノクロ映画のように白いドレスで、オマケに下着まで白い。
しかも、
他の女性たちは現代的な普通の下着を身につけているのに対し、カテリーナだけは明らかに古い年代を意識した下着(でかい!)のように見える。(知らんけど…)

アレックスがエリックに銃で撃たれるシーン。
分厚いプルーストの本、「失われた時を求めて」が(何故か)胸の位置にあり、その本が銃弾を受け止め、アレックスは九死に一生を得る。
映画ファンならよく見かけるパターンかも知れないが、オールドファンなら、おお!『荒野の1ドル銀貨』じゃないか! とニンマリしたはずだ。(でも、頭を撃たれたら終わってたぞ、といつも思う…)

この話題も避けて通れない。
小説「デダリュス」の表紙に使われている写真、ジャズ・ファンならすぐに分かったでしょう。
そう、ビル・エバンス(ジム・ホールと共作)の名作アルバム、「アンダーカレント」のジャケット写真を、そのまんま使っているのだ!
「アンダーカレント」自体が、深い意味を持つアルバムだけに、何かしら意味があるのかも知れないが、深く追及するのはやめておこう(← 面倒臭いだけだろうが…)
「デダリュス」と「アンダーカレント」の関係こそ、この映画最大のミステリーと言える……?

ミステリーだと軽い気持ちで見ていたら、最後に騙された事に気づく、面白い映画です。

作品インフォメーション

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Posted by rockaria