映画『恐怖のメロディ』DJに襲いかかるストーカーの恐怖!

本日ご紹介の映画は、クリント・イーストウッドの初監督作品です。
初めての演出とは思えない、出色の出来になっています。
楽しんでいって下さい!
男も悪いが、女は怖い……
こんな人にオススメ!
- クリント・イーストウッドの初監督作品を見てみたい
- ストーカー系サイコサスペンスも大丈夫
- ラジオを聴くのが好き
- 昔のDJスタイルが気になる
どんな映画?
イタリア製西部劇で注目され、アメリカに戻って来て、この映画が制作された1971年に『ダーティハリー』でトップスターになったクリント・イーストウッド。
その『ダーティハリー』で監督をした、ドン・シーゲルから助言をもらいながら、自分のプロダクションで監督した記念すべき初監督作品。
当時、ストーカーと言う概念がなかった時代に、執拗に男を追いかけて来る女性の狂気は、あまりにも衝撃的だった。
主役をローカル・ラジオ局のDJにした事で、劇中に流れる音楽にも注目です。
また、実際のジャズ・フェスティバルを劇中に取り込んだ、貴重なシーンもあります。
▶︎▶︎▶︎ KRMLと言うラジオ局のDJデイブ(クリント・イーストウッド)は、電話で「ミスティをかけて」と言うリクエストに応える。
仕事帰りに、いつも立ち寄るダイナーで、そのリクエストした女性と仲良くなり、彼女の家で一夜限りの約束で夜を共にした。
だが、そんな約束は無かったかのように、その女性イブリン(ジェシカ・ウォルター)は、恋人のように家に押しかけて来る。
元カノとヨリを戻そうとしていたデイブは、「話が違う、二度と目の前に現れるな!」と怒る。
だがイブリンは、デイブと元カノが一緒にいるところを目撃すると、彼女の行動はエスカレートし、常軌を逸して行く……。

(↑このソフトについて紹介しています)
見所&解説
ストーカーの心理
イブリンの心理状態もよく描写され、デイブの立場も、男子諸君なら痛いほど分かるだろう。
また、イブリンの行動を見ていると、ストーカーになって行く過程が、理屈じゃなく、あまりにも感情的で怖い。
このストーカー事件を生み出した張本人は、浮気症のデイブにある。
彼の軽率な行動が招いた、自業自得なのだが、だからと言って「ざまあみろ」と言う気持ちには、ならないだろう。(← 女性なら、ざまぁ見ろ!で、一致ですな…)
アメリカン・ニューシネマ
見所の一つとして、こう言ったストーカー事件の結末と対処法だろう。
だが、残念なことに、そのどちらも最悪の結果だと言える。
だから、絵空事ではない恐怖と、映画としての面白さを両立させている。
その背景には、ベトナム戦争の影響が大きい。
この映画が作られた1971年は、ベトナム戦争を抱え、社会不安にアメリカは陥っていた。
そこに登場したのが『イージー・ライダー』で、これを筆頭に『真夜中のカーボーイ』『俺たちに明日はない』『スケアクロウ』と、枚挙にいとまが無いほど、アメリカン・ニューシネマの台頭があった。
その中にあって、あまり論じられないが、この作品も間違いなくアメリカン・ニューシネマだのだ。
夢から覚めないハリウッド作品を尻目に、現実に目を向けたからこそ、リアルに怖い作品が作れた。
そして、アメリカン・ニューシネマの烙印を押された作品は、どれも名作・傑作・秀作が多いのも特徴だ。
『危険な情事』へ続く
1987年に公開された『危険な情事』も、まるで『恐怖のメロディ』のリメイクではないのか、と思えるほどスタイルが似ていた。
マイケル・ダグラス、グレン・クローズと言う、当時のスターを起用、時代の空気感をうまく取り入れ制作された。
だが、ストーカーの恐怖、と言う本質は、ここでも変わっていない。
現代においてもそうだ。
映画が現実のようになって来たのか、それとも、現実が映画のようになって来たのか……。
音楽を楽しむ
ジャズ大好き人間のクリントは、カリフォルニア州カーメル市(後にクリントはこの街の市長に!)の隣町で、本当に行われる「モンタレー・ジャズ・フェスティバル」の撮影を敢行、作品に取り入られている。
ラジオ局のDJと言う役柄もあるが、個人的に、監督の立場を利用したな、と思っている。
クリントの実の息子、カイルはジャズ・ミュージシャンになり、後にアルバムも出すし、クリント作品のサントラも手がけるようになる。
(余談ですが、デイブがDJを務めるラジオ局、僕はてっきりFM局だと思い込んでいたが、実はAM局だった、と言うことに気付きしました)
また、劇中、クリントにしては長目のラブ・シーンがある。
そのBGMとして使われているのが、無名の歌手、ロバータ・フラックの「愛は面影の中に」だ。
この後、彼女は「やさしく歌って」で、一躍有名になったのは、あまりにも有名だ。
伏線が上手い!
原題『Play Misty for Me』とあるように、「ミスティ」と言う曲が最初にリクエストされ、物語が始まる。
そして、エンディングでもこの「ミスティ」が流れ、物語が終わるが、その使い方はお見事。
これはぜひ映画を見て、実感して欲しい。
サイコスリラーが好き、ジャズ・フェスにも興味があって、ラジオ好き、こんな人は必見です!
【シネマ血眼ウォッチング】『ダーティハリー』とのリンク
『ダーティハリー』で、ドル箱スターとなったクリント・イーストウッド。
実はその作品の中で、面白い「遊び」を見つけたので、紹介しておきましょう。
ハリー・キャラハンが、冒頭でホットドック店に入る直前の映像です。(テレビ画面をキャプチャーしたものです)

分かりましたか?
え? わからない?
それでは拡大してみますね。

通りの奥の看板に、『恐怖のメロディ』の原題、『PLAY MISTY FOR ME』とあります!
ドン・シーゲル監督は、同じ時期に制作された『恐怖のメロディ』の宣伝を、こんなお茶目な形でしていたんですね。(さすが師弟の絆!)
もう一つ!
ハリーがスコルピオの電話で、お金を持って、あっちこっちに移動させられているシークエンスがありますよね。
下のシーンに注目!
駅の階段を降りる途中の壁に、落書きがあります!
これは……。

当時2〜3歳の息子、カイルの名前が書かれているんです。(しかもハッキリと)
父親としての愛情が伝わって来るシーンですね。
今度『ダーティハリー』を見る機会があったら、注目して見て下さい。

作品インフォメーション
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恐怖のメロディ (字幕版)¥299
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コメント一覧
こんばんは、ロッカリアさん。ご無沙汰しておりましたが、またロッカリアさんのブログで紹介された映画について、コメントさせていただきたいと思います。
クリント・イーストウッドの記念すべき初監督作のサイコ・ホラーサスペンスの傑作 「恐怖のメロディ」。
大好きな映画の1本です。
この映画「恐怖のメロディ」は、現在のハリウッド映画界で大スターであると共に、監督としても名匠の地位を築いたクリント・イーストウッドの記念すべき初監督作品のサイコ・ホラーサスペンス。
ラジオ局の人気DJデイブ(クリント・イーストウッド)は、ある日、「ミスティ」をリクエストする美女エヴェリン(ジェシカ・ウォルター)とバーで知り合い、軽い情事のつもりで、一夜を共にします。
ところが、翌日も彼女は現われ、戸惑うデイブ。
彼にはトビー(ドナ・ミルズ)という恋人がいるにも関わらず、執拗に迫って来るエヴェリン。
迷惑が次第に脅迫となり、デイブの日常を侵食していきます。
彼女がデイブの家で手首を切って自殺を図ったり、密かにデイブの家の合鍵を作り、嫉妬に狂った彼女は彼の留守中に忍び込み、部屋を荒らし、家政婦への殺人未遂を起こしたりと常軌を逸した異常な行動が続き、遂に警察も動き出し——–。
イーストウッド監督は、この映画の随所に細かな伏線を張り巡らし、ジワジワとサスペンスを盛り上げていきます。
初めは素敵に見えるエヴェリンだが、深夜の騒音を咎めた近所の住人を大声で罵ったり、デイブに、「あなたは態度で愛していると言ってくれた」などと言うあたりから、何とも言えないゾッとするような鬼気迫る表情を見せていくのです。
そして、遂にエヴェリンは施設に収容され、デイブはようやく恋人との穏かな日々を取り戻す事になります。
しかし、そんなある日、彼の番組に「ミスティ」のリクエストが彼女から届きます。
彼女は詩の一節を読み上げます。そして、よく聞けば病気は治りハワイへ旅立つというので、安堵するデイブだったのですが——–。
もともと、「ミスティ」というのは、モダン・ジャズの伝説的な巨人、エロール・ガーナーの永遠のスタンダード・ナンバー。
この映画の原題の「Play Misty For Me」にもなっているこの曲は、映画の中でなかなか流れてきません。
やっと流れてくるのは、映画の中盤の、エヴェリンの恐怖から解放されたデイブがホッとするシーンに初めてかかるのです。
ところが、「恐怖のメロディ」がサイコ・ホラーサスペンス的になってくるのは、実はここからなのです。
イーストウッド監督のうまさが冴え渡ります。
深夜、デイブが何者かにナイフで襲われ、犯人は逃走。
マクヒュー警部(ジョン・ラーチ)は、この事件をエヴェリンの仕業と断定。
そして警察は放送局に逆探知装置を取り付け、彼女からのリクエストを待つ事に。
マクヒュー警部は、デイブの恋人ドナが危険と感じ、身辺警護をするためにドナの家へ向かいます。
一方、デイブは例の詩がエドガー・アラン・ポーの「アナベル・リー」の一節にある事に気づきます。
ドナの命が危ない——–。
嫉妬の果てに殺人鬼と化したエヴェリンは、本当に身の毛がよだつ程、本当に怖いキャラクター。
この映画は、後のサイコ・ホラーサスペンスの傑作「危険な情事」の元ネタになった事でも有名で、そして、イーストウッドは、初演出ながらヒッチコックを思わせる、実にうまい演出ぶりで、後の大監督イーストウッドの片鱗が、すでにこのデビュー作から感じられますね。
我々クリント・イーストウッドファンにとっては、彼の大好きなジャズという音楽、後に彼が市長を務めるカーメルという都市、それに何と言っても、彼の映画監督としての師匠でもあるドン・シーゲル監督が、バーテンの役でご祝儀出演しているのも、嬉しいかぎりでした。
ご返事遅くなり申し訳ありません。
そして、いつもコメントをコメントを頂き有難うございます。
クリントがジャズ好きなように、mirageさんもジャズがお好きなんですね。(僕もです)
僕も、この映画で初めてドン・シーゲルを見ることが出来ました。
また、「モンタレー・ジャズ・フェスティバル」をゲリラ撮影している度胸も、実にクリントらしいと思いました。
この作品を、70年代に初めて見た時は、監督としての資質に驚き、今までアクション・スターだと考えていた概念も崩されました。
mirageさんがこの作品をお好きなように、僕も大好きで、何回も見返しています。
早い時期に、こんな映画に出会えた事に感謝しかありません。
いつもながら、僕のブログよりも丁寧で深いコメントに、返信するコメントがあまり思い付かず、凡庸な事しか書き込めなくて恐縮です。
でも、また懲りずにコメントを読ませて下さい。
mirageさんのコメントには、大変刺激を受けますので!
本当にいつも有難うございます。